東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2057号 判決
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〔事実〕<前略>一 請求原因
1 原告は、次の実用新案権を有する。
考案の名称 自動車の盗難防止装置
登録出願 昭和三九年三月七日(昭和三九年実用新案登録願第一七五二六号)
出願公告 昭和四〇年七月八日(昭和四〇年出願公告第一九六〇六号)
実用新案登録 同年一二月二〇日
実用新案登録番号 第七八九、七九九号<後略>
〔判決理由〕一 本件実用新案の技術的範囲
原告が請求原因一においてその主張するとおりの実用新案権者であること、本件実用新案の登録請求の範囲の項の記載が原告主張のとおりであることおよび右権利が、かじ取りハンドル車と少くとも一個の操縦ペダルを有する自動車の盗難防止装置に関するものであることは、当事者間に争いがない。そこで、右権利の技術的範囲について考察するに、本件実用新案の登録請求の範囲の項の記載によれば、右権利の要部は、(1)一つを自動車の操縦ペダルの一つに固定し、他方をかじ取りハンドル車のリムまたはスポークに固定する諸部、すなわち二個以上の部材を有する細長い伸縮自在体と(2)右伸縮自在体の各端に設けられた連接装置および(3)ハンドル車と操縦ペダルの自由な運動を防ぐ位置に、右伸縮自在体の諸部を固定する鎖錠装置にあるものということができる。そして、前叙本件実用新案の請求登録の範囲の項および考案の詳細な説明の項の各記載を総合して、右各部の構造をさらに検討すると、右(1)の伸縮自在体とは、(一)剛体からなるもので、(二)二個以上の部分(諸部)を有し、(三)伸縮作用は、右部材が互に摺動嵌合することにより行なわれ、(四)右諸部は、鎖錠装置によつて所望の位置に固定できるものであり、また、右(2)の連接装置は、(一)細長い伸縮自在体の各端に設けられ、(二)その一方を自動車の操縦ペダルの一つに、他方をかじ取りハンドル車のリムまたはスポークに引掛けて固定する構造のものであり、さらに、(3)の鎖錠装置は、前記伸縮自在体の両端にある連接装置が引掛けられたハンドル車と操縦ペダルが自由に運動することを防ぐよう、右伸縮自在体を固定するための装置であれば足り、その鎖錠の方法は問わないことが認められる。被告は、この点につき、右原告の実用新案の各装置は、いずれも極めて広い概念を示しており、また、それぞれ公知のものであるから、本件実用新案の技術的範囲は、その考案の詳細な説明に実施例として記載されている装置に限定されるべきであると主張する。しかし、考案の詳細な説明の記載によつても、本件実用新案の技術的範囲を前記実施例に限定すべきものとする何らの根拠は見出だせず、また、他に以上の認定を覆えし被告の右主張を肯認するに足りる証拠もない。
二 原告の実用新案と被告製品との対比
被告が、別紙目録記載の自動車盗難防止器を販売していることは当事者間に争いがない。
そこで、右被告製品と原告の本件実用新案とを対比するに、当事者間に争いのない右事実から、被告製品も、本件実用新案と同様、伸縮自在体の両端にある引掛部を、操行ハンドルと操縦ペダルとに引掛けたうえ、伸縮自在体を所望の位置に固定して、右ハンドルおよびペダルの自由な回動を防ぐものであるから、その基本的な構造として、(1)連接装置、(2)施錠装置および(3)伸縮自在体とに分けることができる。前記当事者間に争いのない事実にもとづいて、右各装置をさらに検討すると、右(3)の伸縮自在体は(一)剛体からなり、(二)施錠部の郭体6に固定された外筒1と複数の外周溝5を有する摺動杆3およびこの摺動杆3が、施錠部の郭体の右方部7から上方に突出した部分を切断し、その両切断端を二又状の接続子9とピン10とで起状自在に継いだ部分からなり、(三)本伸縮自在体の伸縮作用は、外筒1と摺動杆3との摺動作用によるものであつて、(四)右両部材は、施錠部12の郭体の左方部の中にあつて、シリンダー14とその下位にある押圧バネによつて常時押圧され、かつ、先端の一側が斜面に形成してある係止子16の先端を、摺動杆3に設けられた外周溝5に係合させることにより、所望の位置に自動的に固定できるものであり、また、右(1)の連接装置は、(一)右伸縮自在体の各端に設けられたものであつて、(二)その一方11を操行ハンドルに、他方2を操縦ペダルに引掛ける構造であることが明らかであり、最後に、右(2)施錠装置は、右伸縮自在体の構造に関して述べたとおりのものであるから、同伸縮自在体の両端にある連接装置が引掛けられたハンドル車と操縦ペダルとの自由な運動を防ぐよう、右伸縮自在体を固定するための装置であることは明らかである。
右被告製品の各部分を本件実用新案の各要部と比較検討すると、先ず、被告製品の伸縮自在体においては、本裁実用新案が要件とするところのものはいずれもこれを備えているものといわなければならない。なるほど、前叙争いのない事実から、被告製品にあつては、摺動杆の一部を切断し、その両切断面を二又状の接続子とピンで継合することにより、引掛部と摺動杆の屈曲を可能にするとともに、右外筒および摺動杆の切断面を円形とし、摺動秤に外周溝を設けて、施錠部の係止子を係合させることにより、自由に回転しうるようにしたことが認められるが、本件実用新案の登録請求の範囲の項および考案の詳細な説明の項には、本件実用新案の技術的範囲を特に限定して、その伸縮自在体を屈曲および回転可能とすることを除外すると解されるような記載はないのみならず、右接続子およびピンも、伸縮自在体全体の構造からみれば、摺動杆の一部であつて、結局、摺動杆の単なる一態様にすぎないものということができる。また、被告は、右摺動杆に穿切された外周溝は、その部位、型状において原告の実用新案における摺動杆のくぼみとは全く異ると主張するが、右の相違は、被告製品と、本件実用新案における考案の詳細な説明の項掲記の実施例とを対比したものであることが明らかであるところ、本件実用新案権の権利範囲が、右実施例に限られるものでないことは既に判断したとおりであるから、被告の右主張を肯認することはできない。次に、被告製品の連接装置についてみると、同装置は、本件実用新案における連接装置の要件をいずれも備えているものといえる。被告は、被告製品の同装置においては、上方引掛鈎11の彎曲幅は、下方引掛鈎2より広くして、端部も若干外方に開拡させてあるから、同装置は、原告の実用新案権の要件に該当しない旨主張するが、前叙のとおり、本件実用新案の要件は、伸縮自在体の両端に引掛部分を設ければ足るものであつて、その両引掛部が同一型状であることを要するとの限定はないのであるから、右被告の主張は理由がない。最後に、施錠装置についてみると、被告製品の施錠装置は、これに対応する本件実用新案権における鎖錠装置の要件をすべて備えているものといわなければならない。被告は、被告製品における施錠装置は、本件実用新案のそれと構造を異にし、特段の進歩性を有すると主張するけれども、被告の右主張も、被告製品と、本件実用新案の考案の詳細な説明中の実施例とを対比したことにもとづくことが明らかであつて、本件実用新案の権利範囲が、右実施例に限られるものでないことは既に判断したとおりであるから、被告の右主張も採用しえない。
以上のとおり、被告製品は、本件実用新案の必須構成要件をすべて備えているから、その権利範囲に属するものといわなければならない。
三 差止請求についての判断
以上のとおり、被告製品は、原告の本件実用新案権の権利範囲に属するから、これを侵害しているものというべきところ、被告は、過去において、被告製品を販売していたことがあり、現在はこれを行なつていないが、将来右製品の販売を行なうか否かは、本件訴訟の結果をまつて決定するというものであることは、被告の自認するところである。右事実によれば、被告は、今後、原告の実用新案権を侵害するおそれがあるものというべきであるから、原告が被告に対し、その侵害の予防のため、被告製品の販売および販売のための展示の差止を求める請求は、理由があるものといわなければならない。
四 損害賠償請求についての判断
被告が、別紙目録記載の自動車盗難防止器を、昭和四四年一一月一日から昭和四五年二月二八日までの間に、二、〇〇〇個販売したことおよび本件実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額として原告が主張する金額のうち、実施品の販売価格の二パーセントまでの範囲については、被告の認めるところである。また、成立に争いのない乙第三号証によれば、本件被告製品が一個金三、八〇〇円で販売されたことが認められるが、本件実用新案の実施に対し実用新案権者が通常受けるべき金銭の額のうち、その実施品の販売価格の二パーセントを超える部分については、これを認めるに足りる証拠がない。してみれば、原告は、被告の別紙目録記載の製品の総販売価額である金七、六〇〇、〇〇〇円の二パーセント金一五二、〇〇〇円を、その実施料として受けうべきものであつたことが認められるから、原告が、本件実用新案権の侵害に対する損害賠償として、被告に対し、右金額を限度として、その支払を請求する部分は、理由があるものといわなければならない。
五 結論
よつて、原告の本訴請求のうち、被告に対し、別紙目録記載の自動車盗難防止器の販売および販売のための展示の差止および被告の本件実用新案権の侵害により原告が被つた損害金一五二、〇〇〇円の支払を求める部分は理由があるので、これを認容し、その余は、失当であるのでこれを棄却する。
(荒木秀一 野沢明 元木伸)